STORY.5
1.April
解禁!春の小女子漁。
長く寒い石巻の冬にやっと訪れた春の兆し。木の屋でも、春だけに作る小女子の佃煮の仕込みがはじまっています。
小さい春の使者
「小女子」
「小女子」
「小女子」と書いて、なんと読むかご存知ですか?
一瞬「小公女」が頭に浮かんでしまいそうですが、正解は魚の名前「こうなご」。
西日本に住む方には馴染みのない響きかもしれません。主に関西では「いかなご」、東日本では「こうなご」と呼ばれている、しらすに似た小さな魚のことです。見るからに可愛らしいこの「小女子」という名前は、その姿が小さい女の子のように可愛いことからつけられたんだとか。
今年の石巻の小女子漁解禁は、4月。
日が沈む夕刻に船を出し、夜を徹して獲った小女子が早朝の市場に並びます。身が透き通り、ぷりぷりとした小女子。春のはじまりを告げる嬉しい魚です。
やわらかいのは
「生から製法」だから
「生から製法」だから
「びっくりするくらいやわらかい」と評判の木の屋の小女子の佃煮。
「小女子の佃煮は天日干ししたもので作るのが一般的ですが、うちでは生から作っていますからね。」とやわらかさの秘密を教えてくださったのは、木の屋美里町工場の工場長。
木の屋の缶詰作りのこだわりは、何よりも魚の鮮度を追求し、魚本来の美味しさを引き出すこと。繊細な小女子であっても、追い求めるゴールは同じです。
仕入れた小女子は、すぐに工場で火入れをします。これは、鮮度を落とさずに不純物を取り除くため。「天然の小女子には、仕入れた段階で海草などの不純物が紛れ込んでいるんですが、生のままそれを選別していると、魚の鮮度はどんどん落ちてしまう。なので、獲れたての小女子に一度釜で軽く火を入れてから、しっかり不純物を取り除いています。」
味の決め手は、
舌が覚えている
舌が覚えている
1度目の火入れでは「半炊き」という状態で、身が固くなりすぎないところで火を止めます。選別が終わったものは缶に詰め、殺菌も兼ねて一気に高温で加熱。この2度の火入れによって、身はふっくら、骨までやわらかい小女子の佃煮ができ上がります。
味付けは、喜界島の砂糖と地元の醤油、そして酒をメインとしたシンプルなもの。その日獲れた小女子の大きさや脂のりによって味の染み具合が変わってくるので、最後の味決めは人の舌で確認していきます。
「炊く時間や味付けにはある程度目安はあるものの、生モノ相手なので毎回変わってきます。だから誰でもすぐにできるというわけではなくて、担当を引きつぐときは前任者について、体で覚えなくてはなりません。そうやって受け継いできた味なんです。」
大きな木ベラでまんべんなく小女子をかき混ぜたかと思うと、華麗な手さばきで水あめが宙を舞う。流れるような無駄のない動きは、熟練の技そのもの。
美味しい食べ方は、
お好みで。
お好みで。
春しか取れない小女子の一番美味しい瞬間を逃すまいと、この時期工場はフル稼働。多い日には500キロもの小女子を炊くので、工場の中は1日中もくもくとおいしい湯気に包まれています。
こだわりの小女子の缶詰、工場長のおすすめの食べ方は?
「ご飯にももちろん合いますけど、それはそれとして、僕としては酒のつまみとして食べるのが一番です。夏はビール、冬は日本酒の熱燗と。手間をかけなくても、そのまま食べられるのがいいですよね。」
炊きたてほかほかの白いご飯にのせてもよし、ちびちび箸でつまみながら、お酒を飲むもよし。小女子と一緒に、ふんわりとした春のやさしい気配を味わってみてください。